研磨を知らずしてコーティングを語るな|塗装科学と日本コーティング協会が示す新基準
研磨とは「傷を消す作業」ではなく、「光を設計する技術」です。
近年、自動車コーティング業界では、(社)日本コーティング協会が示す技能評価基準や、
ケヰテック株式会社・金子幸嗣氏が提唱する「塗装研磨の科学的アプローチ」によって、
研磨は職人の感覚だけに頼る時代から、理論と数値で語る時代へと大きく変わりつつあります。
研磨を科学・哲学・実務の3つの視点から捉え直し、同業者の方には「なぜ研磨から逃げられないのか」、
一般ユーザーの方には「なぜコーティング選びは『研磨ができる店』一択なのか」を、わかりやすくお伝えします。

研磨を“感覚”から“科学”へ──(社)日本コーティング協会が示す転換点
25cm四方の800番ペーパー目を、L*0.3以内に収めるという評価基準
(社)日本コーティング協会が実施した研磨技能評価では、25cm四方に800番のペーパー傷を入れ、
決められた時間内にどこまで美しく整えられるかを、測色計(色差計)の数字で評価します。
「スクラッチ(傷)が消えたかどうか」ではなく、L*値0.3以内という客観的な基準が設定されていることがポイントです。
これは、研磨を「なんとなく綺麗」から、「数値で再現・比較できる技術」へ引き上げる大きな一歩です。
“どれだけ消したか”ではなく“どれだけ美しく整えたか”が問われる
ここで求められているのは、「とにかく削る」ことではありません。塗膜を必要以上に削ることなく、
乱反射を抑え、光の通り道を整える研磨コントロールが問われます。
つまり、評価されているのは「傷を消した量」ではなく、塗膜と光を理解した上での仕上がり品質なのです。
同業者こそ逃げられない“評価基準の時代”
今後、研磨技術はますます「見える化」されていきます。
どのような工程で、どの番手で、どのコンパウンドとバフを使い、どのレベルの数値まで仕上げたか──。
それらを説明できない施工店は、やがて「感覚だけで施工している店」として見られてしまうでしょう。
これが、「研磨から逃げられない時代」が来ていると言える理由です。
塗装を“物理と化学”で捉える|ケヰテック金子幸嗣氏の塗装研磨理論
塗装は「硬いガラス質」と「柔らかい樹脂質」の複合体
ケヰテック株式会社・金子幸嗣氏は、塗装を単なる色の膜としてではなく、ガラス質成分と樹脂質成分の複合構造として捉えます。
この構造を理解していない研磨は、
- 過研磨によるクリア層の薄膜化
- 表面の曇り(ヘジング)
- 研磨熱によるバーニング(焼き)
を引き起こし、塗装寿命を縮めてしまいます。
研磨とは「削ること」で「歪みを整え、光を制御すること」
金子氏の考え方では、研磨は“削る量”ではなく、“光学的にどれだけフラットな面を作れるか”が重要です。
乱反射の原因となる微細な凹凸や方向性の揃っていないバフ目を整え、光が素直に通り、素直に返ってくる面を作る行為こそが研磨です。
ここに、研磨を「力技」ではなく物理現象の制御として扱う、科学的アプローチの本質があります。
バフ目・コンパウンド・研磨熱は、すべて“物理現象”
研磨時に起きることは、すべて物理現象です。
- バフ目:研磨粒子の通った軌跡の集合
- コンパウンド:粒度・結合剤・潤滑剤の組み合わせ
- 研磨熱:摩擦・圧・接触時間のコントロール不足
これらを「勘」だけでなく理論として理解し、狙ってコントロールできる技術者こそ、これからの時代に生き残る施工者です。

一般ユーザーに伝えたい真実|コーティングは“誰が磨くか”で9割決まる
コーティング被膜は「下地の状態」をそのまま写し出す
どれだけ高価なコーティング剤でも、下地が傷だらけであれば、その傷を「閉じ込めて光らせているだけ」になります。
微細なスクラッチ、洗車キズ、オーロラマーク、雨ジミ由来のエッチング──
これらをきちんと処理せずに被膜を重ねても、「なんとなく艶が出た」程度にしかなりません。
「どのコーティング剤か」より「誰が研磨するか」が圧倒的に重要
世の中には、さまざまなコーティングブランドやグレードがありますが、仕上がりを決める要素の比率は、体感ではこうです。
- 研磨・下地処理:7〜8割
- コーティング剤のグレード:2〜3割
コーティング選びで本当に見なければいけないのは、
「この店はどのレベルの研磨を、どんな理論で、どんな環境で行っているのか」という点です。

同業者へのメッセージ|研磨を避ける施工店は、これから生き残れない
コーティング剤頼みの施工が危険な理由
「このコーティングは硬い」「このコーティングは◯年持つ」──。
こうしたキャッチコピーだけを武器にしてしまうと、施工者としての技術価値はどんどん薄くなっていきます。
ユーザーが本当に求めているのは、「どんな被膜か」よりも、「どんな技術者が、どのように塗装と向き合っているか」です。
“誰でも塗れる”時代に、差がつくのは研磨技術だけ
メーカー純正コート、量販店の簡易コート、DIY用コーティング剤まで、今や「塗ること」自体は誰でもできます。
だからこそ、
- 塗装をどこまで読み取れるか
- どこまでフラットに整えられるか
- 数値と理論で語れるか
という研磨技術こそが差別化の唯一の武器になりつつあります。
業界の評価基準を「研磨」で底上げしていくために
(社)日本コーティング協会の取り組みや、塗装工学に基づいた研磨理論は、業界全体のレベルを引き上げるための“共通言語”になり得ます。
それに真正面から向き合う施工店と、そうでない施工店──
数年後に生き残っているのは、どちらかは明らかです。

まとめ|塗膜と光を制する者が“本物のコーティング施工者”である
研磨とは、
- 塗装を理解する「材料工学」
- バフ・コンパウンド・熱を操る「物理学」
- 映り込みと艶をデザインする「光学」
- そして、オーナーの想いに応える「哲学」
これらが一体となった高度な技術です。
一般ユーザーの方にとっての正解は、
「研磨を科学的に理解し、数値と結果で語れる施工店を選ぶこと」。
同業者の方にとっての正解は、
「研磨技術から逃げず、正面から学び続けること」。
塗膜と光を制する者だけが、本物のコーティング施工者として選ばれ続けます。
その答えを、私たちはこれからも研磨の現場から証明し続けます。
今回の台湾試験は、研磨を「感覚」から「科学」へと進化させる大きな一歩でした。
参加いただいた受験者の皆様
サポートしてくださった台湾コーティング協会のイさん、テイさん、ヨウさん
通訳をしてくれた東社長、ひろくん
心より感謝いたします。
次回は 10月22日・23日 千葉IICにて1級試験 が開催予定です。
ぜひオブザーバーとしてご参加いただき、新しい時代の研磨を体感してください。