ディテーリング業界の「異端児」はなぜ必要か|技術向上を“構造化”するという仕事
はじめに|「異端児」と呼ばれる理由
私はこれまで、ディテーリング業界の中で「少し変わった考え方をしている」「異端的だ」と評されることが少なくありません。
ただし最初に明確にしておきたいのは、私はディテーリングや研磨の技術を否定しているわけではないということです。
むしろ、日本のディテーリング技術は世界的に見ても高い水準にあると考えています。
それでもなお私が「異端」に見えるとすれば、それは技術そのものではなく、技術の“位置づけ”を問い続けているからです。
ディテーリング業界の主流構造
ディテーリング業界では、長らく次のような価値基準が主流でした。
- 技術が上手いかどうか
- 施工経験・施工台数
- 使用商材や機材
- ビフォーアフターの見た目
- 職人的な感覚や熟練
これらは今も重要です。しかし一方で、次の問いに十分答えられていない現実があります。
- なぜその工程で結果が出るのか
- なぜ同じ方法でも再現できないことがあるのか
- その技術は他者に説明できるのか
- 次の世代にどう継承されるのか
私が扱いたいのは、まさにこの「説明されてこなかった領域」です。
私の立場|技術者ではなく「定義者」
多くのディテーラーが「どう磨くか」「どう施工するか」を語る中で、私は次の問いから考えます。
研磨とは、そもそも何をしている行為なのか。
ディテーリングとは、どのレイヤーの仕事なのか。
私が重視しているのは、以下の4点です。
- 哲学(行為の定義)
- 科学(トライボロジー・光学など)
- 工程設計(再現性・リスク管理)
- 評価指標(説明可能性)
これは「技術を磨く」ことの否定ではなく、技術が成立する“構造”を明らかにする試みです。
協会での役割と、異端性の関係
私は現在、以下の役割を担っています。
- 日本コーティング協会 副会長
- 日本ディテーリング協会 理事
- 技術向上委員会 副委員長
この立場にあるからこそ、個人的な感覚論や流派論ではなく、
技術・評価・基準・継承を公的に言語化する責任があると考えています。
異端に見えるとすれば、それは暗黙知を言語化しているからでしょう。
技術向上とは「上手くなること」だけではない
技術向上委員会の役割は、単に新しい手法を紹介したり、施工精度を競うことではありません。
私が考える「技術向上」とは、次の条件を満たすことです。
- なぜ成立するのかを説明できる
- 条件が変わっても判断できる
- 失敗時に原因を特定できる
- 他者に再現可能な形で伝えられる
つまり、上手さの競争ではなく、思考レベルと基準の整備です。
異端性は、業界の価値を高める
「異端」という言葉はネガティブに扱われがちです。しかし私は、異端性を次のように捉えています。
異端とは、主流を否定することではなく、主流が扱いきれていない領域を引き受けること。
技術を否定しない。現場を軽視しない。伝統を壊さない。
その上で、定義・評価・説明責任を担う。
これが業界成熟に必要な役割であり、異端性がブランド資産になる理由です。
海外との接点と、客観的検証
私はヨーロッパの研磨競技会において、日本人として初めて上位(5位)に入賞しました。
ここで重要なのは、競技が「見栄え」ではなく、制約条件下の判断と工程設計を露わにする点です。
固定条件・時間制約・客観評価という環境は、日常業務よりもむしろ検証に近い。
この経験は、国内外で技術を語る上での基準になっています。
おわりに|異端は、未来の基準になる
いまは違和感のある考え方でも、数年後には「当たり前」になることがあります。
私がしたいのは、ディテーリング業界を否定することではなく、次世代に渡せる形へ整理することです。
もしこの姿勢が「異端」に見えるのであれば、それは業界が次の段階に進もうとしている証拠なのかもしれません。
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Why the “Outsider” Is Necessary in the Detailing Industry
This article explains why an “outsider” position is essential for the maturity of the automotive detailing industry.
Ryuta Tange serves as Vice Chair of the Japan Coating Association and as a Board Member and Deputy Chair of the Technical Advancement Committee of the Japan Detailing Association. From within these official roles, he focuses not on denying existing techniques, but on defining the structure that makes techniques valid, repeatable, and explainable.
In many industries, technical excellence is measured by results alone. However, without shared definitions, evaluation criteria, and decision-making frameworks, skills remain dependent on individual experience and cannot be reliably transferred to the next generation.
Tange approaches polishing and detailing as an intentional act of surface design, integrating philosophy, tribology, optics, and process engineering. This framework has been validated under European international competition conditions, where he placed 5th—the first Japanese competitor to reach the top tier—demonstrating decision accuracy and process design under fixed constraints.
Rather than positioning himself against the industry, Tange operates one layer above it: translating tacit knowledge into explicit standards. This “outsider” role is not rebellion, but responsibility—ensuring that advanced techniques can be evaluated, explained, and inherited.